細胞膜の破壊を制御する分子NINJ1

サイエンス

先日、Nature に非常に面白い最新論文が発表されたので記事にしたいと思います。

前回に引き続き、私が研究している創薬ターゲット分子であるGasdermin D(GSDMD)と関連する内容です。

背景

このブログでは、GSDMD依存的な炎症性細胞死(Pyroptosis)の際には細胞膜の破壊が起こると説明してきました。

炎症性細胞死については初回のサイエンス記事を参考にしてください。

しかし、今までPyroptosisに伴う細胞膜の破壊メカニズムというのはわかっていませんでした。GSDMDによって細胞膜に穴が開いてるのだから、そりゃーそのうち細胞膜が破れるのは当たり前だろうなぁ〜というのが通説で、私もそう思っていました。

しかし!今回の論文ではその当たり前だと考えられていたことを覆す興味深い内容です(1)

今回、著者らはNinjurin1(Nerve injury-induced protein 1: NINJ1)という分子の機能に着目しています。

“Nerve injury-induced protein”ということからもわかるように、本来NINJ1は神経障害依存的に誘導される新規接着分子として1996年に発見されています(2)。その後、マクロファージの細胞死に関与することなども報告され(3)、NINJ1には様々な機能があることが示唆されていました。

NINJ1は細胞膜の破壊に関与している

今回、著者らはN-ethyl-N-nitrosourea (ENU)を用いたフォワードジェネティクスのアプローチでマウスの変異体を作りまくっています。ENUは個体レベルでランダムに変異を起こすことのできる試薬ですね。

ENUによって起こした変異体マウスの骨髄細胞を片っ端からマクロファージに分化し、炎症性の刺激を加えます。その結果、本来であればマクロファージは活性化し、Pyroptosisを起こして細胞膜が破壊された結果、細胞内の内容物が外に漏れ出します。

例えば、Lactate Dehydrogenase (LDH)は4量体で大きな分子なので細胞膜の破壊が起こったときに初めて細胞外に放出される分子として知られています。なので、LDHは細胞膜の破壊を示す指標としてよく測定されます。

この過程の中で、LDHの放出が少ないマクロファージ(=細胞膜の破壊が起こらないマクロファージ)を発見し、その細胞のどの遺伝子に変異があるかをエクソーム解析してNINJ1を同定します。(この段階ですでにものすごい仕事量。。。)

また、NINJ1ノックアウト細胞(マクロファージ)は炎症性の刺激を加えて放置すると、野生型細胞で見られるような細胞膜の破壊が起こりにくくなっていることがわかりました。これは映像を見れば一目瞭然なので見てみましょう。

WT(通常の細胞)では細胞が 風船のように膨らんで、やがてそれが萎んでいくような映像が見られます。これはGSDMDの活性化によって細胞膜に穴が開き、浸透圧によって水が流入するため細胞が大きく膨らみ、その後のpyroptosisによって細胞膜が破れるのでこのように見えます。

炎症性刺激を加えたWTマクロファージ(Kayagaki et al. Nature 2021)

一方、NINJ1ノックアウトマクロファージでは細胞が 風船のようなものを作るのは同じですが、その風船がそのままの状態で維持されています。つまり、NINJ1がないと、GSDMDによって穴が開いているにもかかわらず細胞膜の破壊が起こりにくいことを示唆しているのです。

炎症性刺激を加えたNINJ1ノックアウトマクロファージ(Kayagaki et al. Nature 2021)

実際、NINJ1ノックアウト細胞は細胞膜の破壊が起こりにくいことから、細胞死が起こった後、細胞内にある大きな分子(LDHやHMGB1など)が漏れ出しにくいことも示されています。ただし、GSDMDによって穴は開くので、小さい分子(Mature IL-1bなど)はNINJ1の有無にかかわらず漏れ出すことができます。

さらにすごいのは、抗NINJ1抗体によってNINJ1の機能を阻害することが可能で、その結果、NINJ1ノックアウト細胞の結果と同様、細胞死が起こった後の大きな分子の放出が起こりにくくなっています。

最後に

今まで、細胞死が起こった後の細胞膜の破壊は受動的に行われると考えられていましたが、実はそうではなく能動的になんらかの分子によって制御されているのではないか?という斬新な仮説に基づいて研究がされていて、実際にその分子を同定している素晴らしい内容ですね。

NINJ1はGSDMD依存的な炎症性の細胞死(Pyroptosis)の下流の分子として機能し、細胞膜の破壊を制御する分子。 読んでいて興味深かったのはNINJ1がPyroptosisだけでなくアポトーシス など他の細胞死による細胞膜の破壊にも関与している点。(ただしネクロプトーシスによる細胞膜の破壊に関してはNINJ1非依存の経路を示唆している)

NINJ1を阻害すると、理論的には様々な細胞死による細胞膜の破壊が阻害されることで、それによって漏れ出す様々な炎症性物質を抑えることができます。幅広い分子の阻害剤になりますね。

細胞膜の破壊後に漏れ出す分子として、今回はHMGB1をその代表的なものとして測定していました。HMGB1以外で、具体的にどのような大きな分子がDAMPsなど炎症性物質として機能するのか?は今後も注目したい点です。

実はこの論文はPre-printの時(正式に論文掲載となる前の状態)から注目していた内容なのですが、その際には抗NINJ1抗体によって細胞内の物質が外に出なくなるという阻害実験はありませんでした。

この追加実験はNINJ1を阻害すると炎症を引き起こす様々な分子(特に大きな分子量のもの)が抑えられる可能性を示唆しているので、非常に重要なデータだと思います。(Natureのレビューアー、いい仕事していますね。)

私が調べた限り、現在NINJ1を創薬ターゲットとしている会社はないと思います。しかし、学術論文をいろいろ調べてみるとマウスの実験ではNINJ1が炎症性疾患に関連することが報告されていて、魅力的なターゲットだと感じます。

例えば、2014年のJBCではNINJ1のノックアウトマウスは野生型マウスと比べて、実験的自己免疫性脳脊髄炎 (EAE)に耐性であることが報告されています(4)。ちなみにEAEに関してはGSDMDノックアウトマウスも耐性であることが報告されています(5)

ただし、LPS投与によるマウス敗血症モデルではGSDMDノックアウトマウスとは異なり、NINJ1ノックアウトマウスは耐性でないことが今回の論文で示されています。NINJ1阻害によって大きな炎症性物質の分泌だけを阻害しても特定の炎症性疾患には効果がないかもしれませんね。

今後、ヒトNINJ1のさらなる機能の解明、また創薬ターゲットになる可能性などに注目していきたいです。

References

  1. Kayagaki et al. Nature 2021 NINJ1 mediates plasma membrane rupture during lytic cell death
  2. Araki et al. Neuron 1996 Ninjurin, a novel adhesion molecule, is induced by nerve injury and promotes axonal growth
  3. Lee et al. Cell Death Differ 2009 Ninjurin1 mediates macrophage-induced programmed cell death during early ocular development
  4. Ahn et al. J Biol Chem 2014 Ninjurin1 deficiency attenuates susceptibility of experimental autoimmune encephalomyelitis in mice
  5. Li et al. J Exp Med 2019 Gasdermin D in peripheral myeloid cells drives neuroinflammation in experimental autoimmune encephalomyelitis
タイトルとURLをコピーしました