先日、LINK-JとCIC Tokyoが主催するキャリアフェアで行われたパネルディスカッション「ライフサイエンス系スタートアップに転職する?した?〜HR担当者や経験者が語る〜」に登壇してきました。
私はボストンからオンラインでの参加でしたが、たくさんの方々に来ていただいたみたいで非常に嬉しいです。
せっかくなので、私のブログで当日ディスカッションした一部の内容をまとめて記事にしておこうと思います。
会場では時間がなくて言えなかった点や追加したかった点もブログでは記事にしました。
スタートアップに転職したタイミングやきっかけは?
スタートアップで働くことはリスクなのか?
スタートアップを選ぶ際のポイントは?
このような疑問を持ちライフサイエンス・ヘルスケア系スタートアップのキャリアを考えている方の参考になれば幸いです。
私が創薬スタートアップに転職したタイミングときっかけ
私が創薬スタートアップに転職したタイミングは2019年、私がハーバ―ド大学医学部・ボストン小児病院で炎症性疾患との関連分子(Gasdermin D)を研究していたときです。
当時はGasdermin Dと炎症メカニズムに関する論文をパブリッシュしたばかり。新たなプロジェクトとしてGasdermin Dをターゲットとした創薬関連の仕事を始めた直後でした。
そうこうしている間に、私が研究していた分子と全く同じ分子を創薬ターゲットにしているボストンの創薬スタートアップの創業者が私の書いた論文を見て研究室にやってきてくれたのです。
創業者:「論文読んだけどいいね。うちも同じ分子を創薬ターゲットにしてるんだ。やってることに興味あれば、うちの社員に会ってみない?」
ボスサラ:「(うーん、創薬スタートアップとかちょっと怪しそうだな…でも興味はある。話だけでもしてみるか…)じゃあ少し話でも。」
という感じで進んで行きました。
最初は創薬スタートアップに対して疑心暗鬼になっていましたが、社員の全員と話をした結果、面白そうだと判断して行くことを決めました。
今振り返ってみると、良い決断だったと思います。
きっかけは研究の論文の発表、生活面、たまたま同じ研究をしていた会社の存在など、偶然が重なっていますね。
創薬スタートアップで働くことはリスクなのか?
(まず“リスク”の定義ですが、ここで私が話す“リスク”=“仕事を失うリスク“と仮定して話をしています。)
残念ながらスタートアップで働く以上、リスクがないとはいえません。
実際、私が以前働いていた創薬スタートアップは、私が入社してから2年も経たずに会社が潰れました。以前の記事(私の働いているスタートアップがつぶれます【悲報】)も参考にしてください。
しかし、リスクの有無は創薬スタートアップだろうと大きな製薬会社だろうと同じです。
例えばFierce Pharmaの記事ではバイオジェンが既に100人以上リストラをしたということが報道されています。これはアデュヘルムというアルツハイマー病の治療薬がFDAによって承認されたけど効果に疑問が残っているという問題があるためで、FDAの承認薬を開発してもこのような可能性があるのです。
また、先月には武田薬品工業が3年連続でリストラしているという記事も見ました。このように大きな製薬企業でもリストラは普通に起こることなのです。
そのようなことあり、今の時代一概にスタートアップだけにリスクがあるという気はしていません。
それよりも大切なことは、リスクがあるということを受け入れて、そのヘッジとして自分のスキルを磨いたり仕事のネットワークを広げたりしておくことです。
そうすることで、万が一に会社が潰れたときに他の会社から必要とされる人物になることができます。
ボストンには1000社以上のスタートアップがあるといわれています。その中には成功する会社もあれば、失敗して潰れる会社も多く存在します。私はこれまでにボストンでスタートアップが潰れることを何十社と見てきました。(自分の会社も含めて笑)
似たようなスタートアップがあちこちにあるので、潰れた会社の従業員で優秀な人物は他の会社ですぐに取り合いになって次の職に就いていくのです。
日本でもCIC Tokyoなどを中心にイノベーションのエコシステムが出来上がりつつあります。これからどんどんスタートアップができてくるでしょう。
自分の会社が潰れても、自分がスキルを磨いて必要とされる人材であれば、すぐ隣の会社が雇いたいと言ってすぐに仕事に着くことができます。
リスクがあるということ自体を受け入れてその対策をしていれば、リスクもそれほど恐れることはないと思いませんか?
創薬スタートアップを選ぶ際のポイントは?
研究者の私が創薬スタートアップを選ぶ際に気をつけたことは以下の3つです。
- ヒト
- モノ
- VC(ベンチャーキャピタル)
それぞれ見ていきましょう。
ヒト:社内の人間がどんな人物か?
特に経営陣の過去の業績、経験や評価は重要です。グーグルやLinkedIn、人に聞くなどして徹底的に調べましょう。
また、面接の時にファウンダー、役員(いわゆるCxO、CEO, CSO, CTO… etc)、自分の上司となる人物、同僚になる人物とじっくり話をしておきましょう。何かブラックな怪しいシグナルが出ていないか要チェックです。その人たちと自分の考えやワークスタイルが合いそうかも探りましょう。
モノ:どんな技術やプロダクトがあるか?
会社にホームページなどの情報があればプロダクトや技術に将来性はあるか、自分の知識や経験で貢献できそうか、などをあらかじめ考えておきましょう。ステルスモードなどのスタートアップで情報がなければ、面接の際にも聞くことができます。
必要があれば秘密保持契約を結んででも話をして技術に関して深く理解しておくことをおすすめします。
VC:どのVCがスタートアップに投資しているか?
創薬に投資した経験があるVCがバックについているかを確認しましょう。特にリードVCはボードメンバーとしてその会社に入ってきます。影響力があるので、そのVCに創薬スタートアップ投資の経験がないと、後々困ることがあります。
例えば、創薬スタートアップでは2、3年で結果が出ることはほとんどありません。創薬の投資経験のない投資家がそれを知らずに短期間で投資リターンを期待していたけど、想像と違っていたので急に投資するのやめる…なんてこともあり得ます。
そうならないためにも、評判が良く、経験のあるVCから投資されているスタートアップであるかどうかを調べておくことをおすすめします。
VCはスタートアップに投資する前にものすごい労力と時間をかけてデューデリジェンスをしています。有名VCが投資しているということがわかっていると、会社の将来性や独自の技術に対しても安心感がありますよね。
最後に
いかがでしたか?
スタートアップでは最先端の技術を研究したり非常に優秀な人と仕事ができたりと、とても魅力的キャリアオプションだと思います。
ただし、スタートアップは無数にあるので会社の下調べはしっかりする必要があります。中にはブラックスタートアップ…なんてのもあるかもしれません。
ヒト、モノ、VCの3点をしっかり見て自分に合うスタートアップ選びをしてもらえたらと思います。
次回、2022年3月16日 10:00am(ボストン時間2022年3月15日 9:00pm)に海外日本人研究者ネットワーク United Japanese researchers Around the world (UJA)とTriple Bridge Acceleration Program (TBAP)の共催セミナーイベントがあります。
私も演者として「研究者に聞く!日本からアメリカへ、創薬スタートアップへの転身」というタイトルで講演後、「アカデミア発の研究を社会実装へ」をテーマにパネルディスカションに参加する予定です。
興味のある方は無料でこちらから参加登録可能なので奮ってご参加ください。
それではまた!