アメリカで民間企業の研究職に就くには?〜アカデミアから民間企業へ〜【①】

キャリア

アメリカの大学でポスドクをしているけど、アメリカで民間企業の研究職に転職するにはどうしたらいいだろう?

そんな疑問に答えます。

私は日本で博士号を取得した後、アメリカの大学で研究員・講師として働き、その専門の領域で現地の創薬スタートアップに転職しました。

アカデミア(大学)から民間企業へ転職をした私の経験から、転職活動で大切なポイントを解説します。

アメリカでの一般的な就職活動でのポイントはアメリカで就職活動をするときに役立つ6つのポイントを参考にしてください。

今回は就職活動の中でも、アカデミアからインダストリーへの転職についてです。初回は実際に転職活動する前から準備しておくことに焦点を当てて書きます。いずれのポイントも時間がかかるので、早い段階から準備しておくことが大切です。

グリーンカードを取る

民間企業において、一番重要なファクターはグリーンカード(永住権)の取得です。これは条件付きで仕事ができるビザとは異なり、グリーンカード保持者がアメリカのほとんどの場所で合法的に働くことができるからです。

そして、準備に一番時間がかかるのもグリーンカードの取得です。なので、もう自分の中でアメリカの民間企業に行く!と決めているのであればグリーンカードを取ることを最優先させるのがいいと思います。

ちなみに民間企業に限らず、アカデミアのキャリアを考えてもグリーンカードを持っておくことは重要です。例えば、アカデミアの一部のグラントはグリーンカード保持者ならアプライすることができます。なので、アメリカにキャリア形成を考えているのであれば、アカデミア・民間企業問わず早めに準備することをおすすめします。

ではどうやってグリーンカードを取るのか?

残念ながら、グリーンカードに関しては個々によって取得方法のアプローチが異なるので、ここで一般論を書くことができません。弁護士など専門家と話をしましょう。

しかし私の経験を例にすると、博士号を持った研究者なら、その専門分野の知識や経験がアメリカにとって有益な存在であることを証明できればグリーンカードが取得できる可能性があります

例えば研究者であれば、学術雑誌に論文を書いているでしょう。Nature, Cell, Scienceに代表されるトップジャーナルでなくても構いません。自分の論文に一定数の引用数があれば、その専門分野で活躍している一つの証拠になります。

Google Scholarで自分の論文がどの程度引用されているのかを知っておきましょう。これはグリーンカードを取得するなら弁護士が聞いてきます。

また、今までに自分の専門分野で受賞歴はありませんか?専門の学術雑誌からレビューを頼まれた経験はありませんか?このように専門分野で活躍していることの証拠はいろいろ探すことができます。

私は数千ドル払って弁護士を雇い、上記の証拠を集めて2年程度かけてようやくグリーンカードを取得できました。

研究者として業績がすでにあるなら、グリーンカード所得の成功率が高く、評判の良い弁護士を探してすぐに取りかかりましょう。

弁護士側も経験があるので、あなたの業績からどの程度の確率でグリーンカードが取れるのかがある程度予想できます。見積もりだけならタダなので、一度聞いてみると良いでしょう。

LinkedInを強化する

以前にも書きましたが、アメリカで民間企業に就職するにはLinkedInは必須です。

以下に重要なポイントを3つ解説します。

①プロフィールを完成させる

LinkedInのプロフィールには名前、顔写真、現在の所属、職種、国、分野…たくさん入力する項目がありますが、できるだけ完成させましょう。これはリクルーターや人事の人の目にとまりやすくるすことが目的です。

実はLinkedInには2種類あります。1つは私たちのような仕事を探している人用のもの、もう1つはリクルーター用のものです。そうなんです、リクルーターは専用のLinkedInアカウントを持っていて、そこから私たちのような人材を見つけるのです!

そして、リクルーターが求める人材を検索した際には、候補者のプロフィールの完成度が高いものほど検索上位に出ます。

例えば、顔写真。

あなたが採用する側なら、顔写真があるものとないもの、どちらが信頼できますか?当然、顔写真があった方が第一印象もよくて信頼できますよね。

LinkedInのアルゴリズムではそこが考慮されています。あなたのプロフィールに顔写真がなければ検索で上位に入りませんのでリクルーターの目につかない可能性が高いのです。

顔写真 (Headshot)はプロに撮ってもらったものをおすすめします。(最近はiPhoneでも綺麗な写真が撮れる?)

所属によっては、無料でHeadshotをとってもらえます。私が所属していたBoston Children’s Hospital(ボストン小児病院)では常時、顔写真の撮影をしてくれていました。

②キーワードを入れる

LinkedInのプロフィールにはキーワードを入れましょう。これもリクルーターが私たちを見つけやすくするための対策です。

私のおすすめは、あなたが将来なりたい職種と専門分野をHeadline上に書くことです。(HeadlineはLinkedInでプロフィールを書くときの欄にあります。)

例えば、あなたがSenior Scientistの職種を探しているがん免疫のスキルを持った研究者ならHeadlineにはSenior Scientist ● Cancer Immunology ● CAR-T …という感じです。

ここでのポイントは自分が将来目指す職種を書き、現在の職種を書かないという点です。

例えば、あなたが現在ポスドクであればPostdoc ● Cancer Immunology ● CAR-T …と書きたくなりますが、これはおすすめしません。

これはリクルーター側を意識するとわかりやすいです。仮にあなたがリクルーターでCancer Immunologyが専門のSenior Scientistを探しているならどうしますか?

おそらく、“Senior Scientist“というキーワードを入力して欲しい人材を探しますよね。

例えば、がん免疫の研究者を探しているリクルータであれば“Cancer Immunology Senior Scientist”と入力する可能性があります。しかし、彼らは別にポスドクを探しているわけではないので “Postdoc”や“Research fellow”などのキーワードは入力する可能性が低いのです。

このように、自分のLinkedInにはリクルーターが入力しそうなキーワードを入れることが重要です。Headlineを含め、自分のLinkedInプロフィールにはそれらキーワードを入れておきましょう。

③できるだけ多くの人と繋がる

LinkedInのコネクションが500人以上になると、自分以外の人からは”500+ connections”と表示されるようになります。(自分では正確な人数が見られる)

LinkedInのアルゴリズムではコネクションが500人以上であれば、そうでない人と比べてリクルーター検索の上位に出る傾向があります。

実際、私は昔コネクションが500人以下だったときがありますが、リクルーターからのメールはほとんどありませんでした。現在の500+ connectionsとなってから、リクルーターから「こんなポジションあるけど?」とお誘いがよく来るようになりました。

多くの人と繋がりネットワークを広げることは、リクルーターの検索結果に優位なだけではありません。以前にも書いた“Hidden Job Market“を探す上でも有利になります。自分の同僚はもちろん、様々な分野の人と繋がっておきましょう。

会社に合わせた履歴書を作る

民間企業に出す履歴書はCVではなくResume(レジュメ)です。CVとResumeに関しては以前の記事を参考にしてください。

民間企業でも一般的に1つの応募に対して複数の人がアプライします。そのため人事の人はとても忙しく、1つのレジュメに対して時間をかけてみたりはできません。そのため、レジュメは見やすく、1 – 2ページに収める必要があります。

人事が探している情報=自分の達成したことやできることで企業側に有益な情報、を簡潔かつ具体的に書く必要があります。

例えば、

Solid project management skills with a proven ability to handle multiple collaborative projects simultaneously in immunology as evidenced by 10 scientific publications.

自分の達成したことやスキルに関して、数字を使った実例で簡素にアピールします。私はこのような例を2 – 3つくらい、箇条書きにして一番上にサマリーとして書きました。

あとは、自分の職歴、学歴、テクニカルスキルなどを盛り込みます。アメリカの履歴書には特に決まった形式はなく、自由形式です。ここでも重要なことはキーワードを含めることです。

あなたが送ったレジュメは誰が最初に見るのでしょう?

人事の人?

スタートアップや小さな会社ならその可能性もありますが、多くの場合はコンピューターです。

応募するのはタダですから、一つの募集に対して数十、数百の応募者がいることもあります。中には会社が求めているスキルを全く持っていない人も混じっているかもしれません。

そのため、会社(特に大企業)は候補者を絞るツールとしてApplicant tracking systems (ATS) といわれるものを導入しています。ちなみに、Fortune 500に入っている会社の99%はこのATSを導入しています。

ATSとは人事が採用している応募者のレジュメをデータベース管理するソフトウェアで、人事が求める一定のキーワードを判断し候補者を選別します。なので、オンラインで応募した人はこのATSというハードルを一番最初に乗り越える必要があります。

逆の見方をすると、このATSを乗り越えられなければあなたのレジュメは永遠に人の目にとまることすらなく、会社のデータベースになるだけです。

例えば、がん免疫の研究者を募集している会社であれば、“Cancer Immunology“ というキーワードがなければ、どれだけ良い学歴や職歴の人がレジュメを書いても人事の目にとまることはありません。

これはATSによって、“Cancer Immunology“というフィルターがレジュメを選択しているからです。

他にも、会社の求める人材によって特定のキーワードを設定している可能性があります。そして、これらキーワードはすでにJob Descriptionにヒントがありあます。

LinkedInで見つけたJob Descriptionの例を見てみましょう。以下はTakedaで募集をかけているScientist II – Immuno OncologyのJob Descriptionの一部になります。

ここから、博士号を取得したがん免疫研究者を募集しており、フローサイトメーター、特にCyTOFが扱え、またその解析ができる人材を探しているとわかります。”Clinical”や”Biomarker”などもキーワードかもしれませんね。(赤枠の単語)

もしTakedaのこのポジションを狙っているなら、これらキーワードをレジュメに入れてうまく文章を書きましょう。少なくともATSに弾かれる可能性は減り、あなたのレジュメが実際に人の目にとまる確率は上がると思います。

異なる会社のポジションならもちろん、同じ会社でも別のポジションであれば、それぞれに対してキーワードをカスタマイズしたレジュメを用意する必要があります。

最後に

いかがでしたか?

ここまでが準備段階です。次回以降では、電話インタビュー、オンサイトインタビューなどについて書いていこうと思います。

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