アメリカで研究職を探してるんだけど、どうすればいいんだろう?
そんな疑問に答えます。
私は日本で博士号を取得した後、海外助成金を獲得してアメリカの大学へ研究留学しました。しばらくアメリカの大学で基礎研究者として働き、その後、専門の知識と経験をいかして現地のバイオベンチャーに転職しました。
アカデミア(大学)とインダストリー(民間企業)の両方で転職をした私の経験から、アメリカで就職活動をする前に知っておくと役立つポイントをお教えします。
就職はいつでも可能
アメリカで就職を考えているのであれば、まずは採用システムの違いを知っておきましょう。
日本では高校、大学や大学院の卒業生を一括で新卒採用し、4月の入社になることが多いと思います。「就職浪人」なる言葉があることから入試のように一年に一回しかチャンスがないというイメージがあるかも知れません。
一方、アメリカは確かに卒業と同時に新しい職を得る人も多いですが、一般的には採用は常時行われており、優秀な人材であればすぐに採用するという企業が多く、いつでも就職が可能です。
特に小さな会社やスタートアップでは即戦力を求めているので、採用が決まった翌週から来て欲しいなんてこともよくあります。
LinkedInの活用
実際、就職探し・ビジネスSNSであるLinkedInでは常に求人を募集していています。LinkedInはアメリカでの就職・転職、特に民間企業への就職には必要不可欠なツールなので、職探しを考えている方は登録しておきましょう。
アメリカでは日本の転職エージェントのような手厚いサポートのあるサイトはありません(少なくとも私は知らない)。LinkedInに登録し自分のプロフィールを作ることで、リクルーターから連絡がきたり、あるいは会社の人事部の人から直接ヘッドハンティングのお誘いがくる可能性が高くなります。
民間企業向けの求人が多いですが、最近ではアカデミアの求人もLinkedInで見かけるようになりました。例えば、“postdoctoral fellow”と入力すると以下のようの結果になりました。
アメリカ全体ですが、今日(2021年1月9日)の時点で2596件のpostdoctoral fellow関連の求人があります。“Scientist”、”Biology Postdoc”など異なる条件で検索できるので色々試してみると良いでしょう。
ネットワークを広げておく
LinkedInを使うのは一つの方法ですが、これだけは自分の希望しているところに採用される確率は高くありません。この理由はアメリカがいわゆる“コネ社会”だからです。
あなたの周りで新しく人を採用するときはどうでしょうか。
知り合いに誰かいない?と聞かれますよね。
採用にあたって一番可能性が高いのは、上司や同僚など知り合いからの紹介です。これはアカデミアと民間企業に共通していると思います。
会社によっては”Employee referral bonus”というものがあり、会社内部の人に紹介に誰かが入社すれば紹介した人にボーナスが支給されるというシステムがあります。
LinkedInからの募集は誰でも応募できるので、優秀な人材から応募が来る場合もありますが、そうでない場合もあります。企業側は不確実性を嫌うので、同じ会社内の知り合いで身元が保証されている人材欲しがるのです。知り合いをあたったけど見つからず、仕方ないからLinkedInで募集かけよう、という場合も少なくありません。
このようにLinkedInなど公の求人になる前のものは”Hidden Job Market”と言われたりします。この記事によれば、求人情報の50%以上は友人からの聞いた、また37%はプロフェッショナルなネットワークからと回答しています。
採用にあたっては自分の業績が重要なのは当然ですが、一番の近道は行きたい会社の知り合いを当たり、公になる前のHidden Job Marketを狙うことなのです。
「ネットワーク力が重要なのはわかったけど、私そんなのないよー!(泣)」と思うかもしれません。そんな方でも自分の所属している研究室や研究施設に同僚はいるでしょう。そこからでも同僚の知り合い、その知り合い…と、ネットワークの輪を広げることができます。
研究者なら学会やセミナーで似たような研究をしている人がいるでしょう。ポスター発表なら発表者と直接し話をするいいチャンスです。
大学によっては、キャリアセミナーのようなものに参加するのも一つの方法です。例えば、ハーバード大学医学部やその付属病院では自分と同じ大学の卒業生や出身生を招いてパネルディスカッションをするというものがありました。その中には自分と同じようなキャリアパスを歩んでいる人もいるので、交流しやすいはずです。
このような地道な活動を通して早い段階からネットワークしておくことがアメリカで採用されるための近道だと思います。
リファレンス文化
また、アメリカの採用においては“Reference (リファレンス)“と呼ばれるシステムもとても重要なので知っておきましょう。リファレンスとはあなたのことをよく理解し、推薦をしてもらえる人物のことです。
一般的には最低2−3名、あなたの指導教員や上司、場合によっては同僚や部下をレファレンスとして、名前と連絡先を会社側に送ります。
会社側はあなたを介さずその連絡先に直接コンタクトをとり、あなたの身元について詳しく調査します。人によってはこのリファレンスで採用する・しないを決めるので、必ず信頼のおける人物を選びましょう。 このように、(日本でも同じですが)アメリカでは特に良い人間関係を築いておくことが重要になります。
ビザとグリーンカードの重要性
残念ながら日本人を含めた外国人は働くことが許可されたビザもしくはグリーンカード(永住権)がなければアメリカで働くことができません。当たり前のことですが、実はアメリカの就職では就労ビザの取得が前提条件なので私の経験を少しお話しします。
日本の大学の研究者がアメリカに初めてくる場合、最初の職は大学や国立機関の研究所でのポスドクが一番スムーズだと思います。私は初めJ-1ビザ(交換訪問者ビザ)で渡米しアメリカでポスドク、その後H-1Bビザ(就労ビザ)に切り替えポスドクを継続しました。
実はアメリカの大学などで研究するのであれば、発行数に上限がないためH-1Bビザの発行が比較的容易です。自分の働く予定の大学や研究機関が受け入れビザ発行のための費用を出してくれるのであればH-1Bビザが発行されます。
しかし、アメリカの民間企業に就職する場合のH-1Bは異なります。この場合のH-1Bビザの数は一般枠65,000件と発行に上限があるため、それ以上の応募があれば抽選になってしまいます。また応募時期にも制限があります。(詳しくはUSCISのサイトを自己責任で調べてください。)
企業側からするとビザが取得できるかどうかもわからない人を採用するよりも、ビザ不要ですぐに働ける人を選ぶのは容易に想像できると思います。
ではどうすればいいか?
私は早めにグリーンカードを取得することにしました。研究者であれば、その専門性からグリーンカードを取れる場合があります。
前述のように、アカデミアのH-1ビザを取得し、その後自分で弁護士を雇い、自分の専門性をアピールしてグリーンカードを取ることができればアメリカでの就職活動がとてもしやすくなります。
CVとレジュメの違い
アメリカの履歴書には日本のように「履歴書」と書いたフォーマットの決まったものは売っていません。自分で自由に自身の能力をアピールできます。しかし、ある程度ルールがあるのも事実なのでアメリカの履歴書について少しお話しします。
アメリカの履歴書には大きく分けてアカデミア用と民間企業用の2つ、それぞれCV (Curriculum Vitae) とResume(レジュメ)があります。この2つをいっしょにしてはいけません。
アカデミアのCVはページに上限がなく、自分の業績に関することをできるだけ詰め込んでオーケーです。特に重要な項目はどれくらい質の高い論文を発表しているかという点です。また、どこの大学、研究室出身かということも見られます。
一方、民間企業用のレジュメは1〜2ページ以内に収めるのが一般的です。自分の発表論文を羅列するより、自分のテクニカルスキルは何かを明確にすることが重要です。行きたい会社がどんな能力を求めているかをJob Descriptionを見て確認しましょう。
これらCVとレジュメの書き方や詳細はまたいつか記事にします。
両者に共通しているのは性別、生年月日、結婚をしているかなど、仕事に必要な能力と関係ないことは記載が不要な点です。これは男女平等、人を年齢で判断しないなどのアメリカのカルチャーが関係しています。日本から履歴書を送る方は知っておきましょう。
最後に
今回はアメリカで就職活動をする際、私が知っておけばよかったと思う一般的なことを記事にしてみました。
次回以降は、アカデミアと民間企業それぞれについて詳しく書いてみようと思います。両者は、その特徴の違いから就職活動の戦略が異なります。
お楽しみに!