スタートアップ向けシェアラボの魅力とは?

連載(日経バイオテク)

ボストンは世界有数のイノベーション都市であり、特にライフサイエンスやバイオの研究が盛んに行われています。ボストンには、1000社超のバイオ企業が拠点を持っているともいわれ、今後もたくさんのバイオスタートアップがこの地で生まれることは間違いないでしょう。

 多くのバイオ企業には、研究を実施するための研究室(ラボ)が必要になるわけですが、設立間もないスタートアップには、自社の研究施設を持つ資金的余裕はありません。そのため通常、スタートアップは他のスタートアップとラボをシェアをする場合がほとんどです。そして、ボストンにはスタートアップを支援するためのシェアラボが数多く存在し、スタートアップがいち早く実験を開始できる環境が整っています。

 では、ボストンでシェアラボを借りたらどの程度の費用がかかるのでしょうか。また、どのようなサービスが受けられるのでしょうか。今回は私の経験から、ボストンでバイオスタートアップを始める際に必要なシェアラボについて、ご紹介したいと思います。

実験台1台なら月額数十万円から使用可能

参考までに、私が働いていた創薬スタートアップが入居していた米LabCentralを例に取ってみましょう。LabCentralは、2013年に設立され、マサチューセッツ州ケンブリッジに拠点を置く非営利組織です。現在、ケンブリッジやボストンにおいて、数十社のバイオスタートアップ向けに複数のラボやオフィスを提供し、常駐するLabCentralが運営支援を行っており、入居する経営者や研究者のネットワークが構築されやすい環境が整っています。

 LabCentralに入居する際に、まず必要になるのが賃貸プランを選択することです。LabCentralのウェブサイトのFACILITIES & SERVICESを見ると、例えば、「individual lab benches」は、月額約4000ドル(約54万円)程度かかります。

 これは、オープンスペースのラボにある実験用ベンチを一席だけ(実験台全体ではなく、あくまで実験台の一席分のみ)借りられるというシンプルなプラン。ただ、このプランでは、LabCentralにある共同機器などが使えるので、お得なプランといえます。実際に研究室で働く研究者、技術者の数が1人、2人しかいないのであれば、このプランで十分です。

 研究者や技術者が複数いる場合には、その人数に応じて個室を借りることをお勧めします。「private lab suites」は、月額8530~6万2920ドル(約115万~約850万円)とレンジが広いですが、これは実験室の大きさが異なるからで、当然、広い個室を借りれば月額の料金は高くなります。

 個室を借りた場合、自分の会社で購入した機器などを設置することが可能になります。例えば私の会社では、細胞培養実験のために培養器(インキュベーター)、安全キャビネット、遠心機を置いていました。これらの機器の設置は、LabCentralの従業員が一緒にやってくれるので助かります。

オープンスペースは、他社の研究者とのコミュニケーションが取りやすく、ネットワーキングになっていたりもするのですが、他の企業も含めて誰が何をやっているかが丸見えなので、プライバシーが心配だと感じる人もいるかもしれません。一方、個室を借りればその企業のメンバーだけで実験を進めることができるので、プライバシー面では安心です。

 どのプランを選ぶにしても、月額の賃料に加えて、LabCentralにアクセスするためには利用料(resident fee)として 1人当たり月額425ドル(約5万7000円)がかかります。LabCentralの利用者になると、中にある共有機器、事務机、会議室、キッチンなどが自由に使えるようになるためです。会議室はインテリアにこだわったとてもオシャレな空間になっていますし、キッチンにあるコーヒーなどのドリンクは飲み放題、スナックや果物も食べ放題なので、毎日行くのが楽しくなります。

 また、試薬を発注する際には、LabCentralのオンラインオーダーシステムから簡単に手続きができるようになっていて、ストックがあれば、早ければ当日に届いたりします。しかも、注文した荷物の受け取りは、LabCentralの荷物置き場にいる従業員がやってくれます。利用者は、運送会社から配達完了通知が来てから荷物置き場に出向き、サインをすれば終了です。

細胞培養プレートやピペットなど、よく使う消耗品は、LabCentral内にある売店や自動販売機で買えるので、瞬時に補充ができます。プレートが切れたのに、注文し忘れていた……というピンチのときも、売店に駆け込んで購入すれば、実験を中断することなく研究を進める事ができます。また、実験で出る、感染性廃棄物を含めたゴミの収集も、LabCentralが契約している廃棄物業者が定期的に処分してくれるので、研究者や技術者は実験に没頭することができます。

情報を得て人と繋がれる利点も

加えて、LabCentralでは 毎日のようにイベントが開催されています。そこでは、起業家のアドバイスを受けたり、試薬・機器メーカーの最新情報を得たり、LabCentralに入居しているスタートアップのセミナーが開かれたりと、実験の合間に情報収集やネットワーキングをすることもできます。

 これだけ良いこと尽くめのLabCentralですが、問題は人気がありすぎることです。コロナ禍で状況が変わっている可能性もありますが、少なくともこれまでは希望すればすぐ入居できるような状況ではありませんでした。通常、LabCentralに入居を希望するスタートアップは、ウェイティングリストに登録され、順番が来れば入居できるようになっています。

唯一の例外は、LabCentralの一部のスポンサーが持っている「ゴールデンチケット」を手に入れること。同チケットは、実験用ベンチ一席分(1人分)、1年間のみという条件付きではありますが、ウェイティングリストに登録されることなく、優先的に、かつ、無料で入居することが可能です。もっとも、その後のサポートはないので、賃料や利用料を支払う必要があります。また、ゴールデンチケットは、ピッチコンテストなどで優勝したスタートアップに配られる仕組みなので、お金を積んだら手に入るわけではありません。ただ、人気のシェアラボに待つことなく入居できるのは大きな利点です。

LabCentralのスポンサーは、ウェブサイトのSPONSORSから確認できます。スポンサーのうち、米Johnson & Johnson社やスイスRoche社など、LabCentral立ち上げ時からの設立スポンサー(Founding Sponsor)、加えて、プラチナとゴールドのスポンサーがゴールデンチケットを発行する権利を持っているので、同チケットを獲得したいスタートアップは、各スポンサーのウェブサイトから獲得条件などの詳細をチェックしてみてください。

 今回は、LabCentralを例に挙げましたが、ボストン、ケンブリッジにはLabCentralの他にも、同様のシェアラボがたくさんあります。また、マサチューセッツ州以外、さらに米国外でも同様のシェアラボを運営しているところもあります。シェアラボに入りたいというスタートアップは、賃料や利用料、サービス、共有機器、立地条件など、ぜひ調べてみて、ベストなサイトを選んでみてください。

ボストン、ケンブリッジの主なシェアラボ

BioLabs:https://www.biolabs.io/

Harvard i-lab:https://innovationlabs.harvard.edu/

LabShares:https://www.labshares.com/

SmartLabs:https://www.smartlabs.com/

Nest.Bio Labs:https://www.nest.bio/

The Engine:https://www.engine.xyz/offerings/the-engine-room/

Alexandria LaunchLabs:https://www.alexandrialaunchlabs.com/cambridge

タイトルとURLをコピーしました