失敗しないCROとの働き方

連載(日経バイオテク)

さて、前回のコラムでは創薬研究における医薬品開発受託機関(ContractResearch Organizations:CRO)の選び方について書きました。では仮に、目的のCROを選ぶことができたとして、実際に彼らとどのように仕事をするのでしょうか?

現在までに私は、アジア、欧州、米国のCROと仕事をしてきましたが、基本的な流れ、やり取りは共通です。今回は、世界各地のCROとの働き方について解説したいと思います。

契約に至るまでの一般的なプロセスは?

CROによって多少異なりますが、よくあるのは以下のような流れです。

(1)CROにコンタクトして会議を設定 一般的にCROには、自社でできない作業、もしくは、ルーチン化された作業を時間短縮のために委託すると思います。自社で必要なサービスを明確にし、目的のCROにメールで連絡して、オンライン会議でサービスの詳細を聞きたい旨を伝えましょう。その際は、前回のコラムで書いたCROの選び方も参考にしてください。依頼するCROの所在地によっては、会議を設定する際、時差を考慮する必要があります。

(2)オンラインミーティングの開催 自社およびCRO社員の紹介を兼ねて、オンライン会議を開催します。私が会議でよく聞くのは主に、サービス内容の詳細、いつ頃からスタートできるか、どれくらいの期間で終了するか、費用はいくらか、コミュニケーションの頻度や方法といった点についてです。

 明確でない点は、会議終了後であってもメールで確認や質問ができます。CROのサービス内容に納得がいくようであれば、見積もりを含めた契約に関する書類を送ってもらいましょう。

(3)各種書類の作成 自社とCRO間で知的財産権や守秘義務など、後に法的問題にならないように契約を結びます。書類作成後に双方が納得すればサインをします。また、支払いのために発注書も必要です。その際、作成する主な書類は以下のようなものです。

―MSA(Master service agreement):自社とCRO間での包括的な法的権利や義務を明確にする契約書。これをベースにして個々のプロジェクトごとのSoW(以下に説明)が作られます。

―SoW(Statement of work):Work Orderともいわれます。どのような仕事が、どのような価格で、いつ、どのように実行されるかなどを、プロジェクトごとに記載した書類。

―PO (Purchase order):発注書のことです。一定金額を決めておき、ここからサービスを受けた分だけチャージされます。

これら書類の作成やレビューは自社の会計など担当者に依頼をしますが、研究者や研究グループ側も創薬研究の実験に関するSoWは確認するようにしましょう。

(4)サービスの開始 無事に契約が完了したら、早速仕事に取りかかってもらいましょう。コミュニケーションは一般的にオンラインでの会話かメールでのやり取りになります。直接会って話をすることはあまりないので、実験の流れ、サンプルの受け渡しなど、段取りをはっきりさせておくことが不可欠です。定期的に途中経過をメールでアップデートしたり、会議で得られたデータに関してディスカッションをしたりできるようにしましょう。

一番重要なのは「任せた!」と放置しないこと

私がCROと仕事をして分かったことは、CROを自分のビジネスパートナー、あるいはチームメンバーとして捉え、働くことが重要だということです。「お金を払ってるんだから、あとは任せた!」と、プロジェクトを放置するのはあまりお勧めしません。うまくいく場合もあるかもしれませんが、それは偶然の可能性が高いでしょう。

 CROは 何年にもわたり、複数のバイオ企業や製薬会社から特定の実験業務を任されているプロフェッショナルであり、研究プロジェクトは基本的に博士号を持った研究者が担当します。そうした研究者は、こちらが知らない情報も持っていますし、似たようなプロジェクトを他の製薬企業やバイオ企業から任されていた(る)可能性もあります。彼らとしっかりコミュニケーションすることで、私自身も新しく学ぶことがとても多く、成果の最大化を図ることが可能です。

 特にフルタイム換算(Full Time Equivalent:FTE)ベースの場合、細かく様々な指示を出すことができます。定期的に報告書の提出や会議をしてもらい、どのような成果が上がったかを把握しましょう。当然、実験データについては、後で再現性を評価できるように生データを含めて送ってもらうか、クラウド上に保管してもらいます。実験結果をベースにディスカッションを行い、次のプラン、うまくいかなかった実験や問題などがある場合にはその原因解明や対策をじっくり話し合います。

例えば、生化学実験に使う複数の精製蛋白質が必要で、遺伝子クローニングとそれらコンストラクトを用いた蛋白質発現、精製のプロセスをCROに依頼するとします。ここで、「蛋白質A、B、Cを作っておいてね。よろしく!」と完全に任せてしまってはいけません。CROは独自に文献を調べたり、過去の経験から各種蛋白質を作ることはできるかもしれませんが、方向性をきちんと示しておかないと、遠回りになり、時間のロスにつながります。また、結果的に望んでいない蛋白質を作ってしまう可能性もあります。

全ての蛋白質について、どういう目的で使うのか、どういう方法で作るするのか、どの程度の量が必要かなど、できるだけ細かい情報をこちらから伝えておく必要があります。コミュニケーション不足により「CROが蛋白質Aを作ったのはいいけれど、実は酵素活性がなくて、遺伝子クローニングからやり直しが必要になった…」なんてことになる場合もあります。そうなる前に、しっかりCROとコミュニケーションをとることでこのようなリスクを減らすことができます。

 そして、実験系の細かい内容に関しては、双方向性のコミュニケーション、つまりCRO へ「指示する」のではなく、「オープンエンドで質問をする」ことがとても重要だと思います。オープンエンドというのは、こちらから制限を設けず、質問を通じて相手の見方、考え方を理解するという意味です。

 上記の例では「蛋白質Aは、XX実験で活性のあるものが必要なので、YYのやり方で発現、精製して、ZZmgを作っておいて」と、CROに特定の条件を指示することが考えられます。しかし、それよりも「蛋白質Aは、XX実験で活性のあるものが必要なので、YYのやり方で発現、精製させて、ZZmgを作ろうと思うんだけど、どう思う?」と質問するとどうでしょう?

 実はCROには、既にXX実験のために、蛋白質Aを作成した経験があるかもしれません。その場合、CROからは「蛋白質Aは過去に経験があるので、YYよりも、YZで発現させるのはどうでしょう?」といった反応が返ってくるかもしれません。そうなれば、良いディスカッションに発展する可能性が高くなります。

このように、CROと働く際は、彼らをビジネスパートナーとして捉え、できるだけ密にコミュニケーションを取り、質問やディスカションしながらプロジェクト進めていくのが成功の鍵となります。

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