マサチューセッツ州のバイオ・製薬産業はこんな大きさ

連載(日経バイオテク)

非営利組織の米MassBioは、2022年8月30日、マサチューセッツ州におけるバイオ産業の概況をまとめた「2022 Industry Snapshot」を公表しました。MassBioは、マサチューセッツ州におけるバイオテックコミュニティーを繋げるハブとしての役割を担う民間組織で、1985年に設立されました。MassBioについては、デロイトトーマツグループによる日本語の解説があるので、気になる方はこちらをチェックしてみてください。

MassBioは毎年、「Industry Snapshot」と題し、マサチューセッツ州におけるバイオ・製薬企業の従業員数や資金調達額などの動向をまとめたレポートを発表しています。ちなみに、2021年に発表された「2021 Industry Snapshot」については、私のブログで一部解説していますので参考にしてみてください。

バイオ・製薬企業の従業員数は15年前の倍以上に

ではまず、マサチューセッツ州におけるバイオ・製薬企業の雇用関連情報を見てみましょう。図1に示した通り、バイオ・製薬企業の従業員数は毎年増加傾向にあります。2021年は、2020年と比べて13.2%の増加となり、15年前と比較すると従業員数は倍以上になっていることが分かります。

図1 マサチューセッツ州のバイオ・製薬産業の従業員数の推移

図2の通り、企業別の従業員数では武田薬品工業が第1位となっており、マサチューセッツ州だけで7000人を超える従業員がいます。

図2 マサチューセッツ州のバイオ・製薬企業別の従業員数

中でも、企業別の従業員数を2020年時点と比較すると興味深く、現在のバイオ・製薬業界のトレンドが垣間見えます。例えば、2020年のデータでは、米Pfizer社と米Moderna社の従業員数がそれぞれ2250人、1738人となっていましたが、2021年のデータでは両社とも大幅に増加しています。これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するmRNAワクチンの研究、製造で従業員数が急増したためと考えられます。

また、2020年時点では2800人の従業員を抱える米Biogen社が第3位に入っていましたが、2021年に米食品医薬品局(FDA)によって承認されたアルツハイマー病治療薬「Aduhelm」(Aducanumab)の売れ行きが不調なこともあり、従業員のリストラや他社への転職が起こっていることが推察されます。現時点では、マサチューセッツ州におけるバイオ・製薬企業全体の従業員数は10万6704人とのことなので、このランキングに入っていない企業の従業員数は合計7万1293人に上るということです。

さらに、気になる従業員の平均給与も公開されています。2021年のマサチューセッツ州におけるバイオ・製薬企業の平均年収は20万1549ドル(約2900万円)であったことが分かります。現在、円安傾向だということもありますが、日本の給与と比較すると高めなのは間違いありません。ボストン界隈のバイオ・製薬企業では、優秀な人材を獲得するため、過激な競争が起こっており、それが年収の高さにも現れた格好です。

VCによるバイオ企業への投資額は年1兆円超

図3に示すように、マサチューセッツ州に本部を置くバイオ企業へのベンチャーキャピタル(VC)の投資額も年々増加傾向にあります。特に、COVID-19のパンデミックが発生した後、2020年と2021年は、日本円で1兆円以上の資金が投資されており、2022年もこの傾向が続くとみられています。

図3 マサチューセッツ州のバイオ企業へのベンチャーキャピタルによる投資額

現時点では、まだ上半期のデータしかありませんが、既に約50億ドル(約7000億円)もの資金が、マサチューセッツ州のバイオ企業に投資されていることが分かっています。これは、米国全体のVCの投資額の26%に相当し、そのうち36%ががん領域、17%が中枢神経系領域、9%が感染症領域となっています。

マサチューセッツ州のバイオ企業に対するVCの投資ラウンド数は合計124となっており、全フェーズの平均調達額は4110万ドル。これは、日本の調達額と比べると数倍の規模で圧倒的に差がありますが、米国全体の平均調達額の中でも1.4倍ほど高くなっており、マサチューセッツ州のバイオ産業の強さが明らになった形です。また、2022年上半期におけるバイオ企業の新規上場(IPO)数は、2021年と比較すると低下しているものの、米国全体のIPO数のうち38%はマサチューセッツ州にあるバイオ・製薬企業となっています。

創薬パイプラインの合計は約2000品目

マサチューセッツ州のバイオ企業の創薬パイプラインからも目が離せません。図4に開発ステージごとの創薬パイプライン数を示します。創薬パイプラインは、合計約2000品目となっており、これはカリフォルニア州に次いで多い数になります。そして、米国全体の創薬パイプラインの15.6%、全世界の創薬パイプラインの7.2%を占めています。

図4 マサチューセッツ州のバイオ企業の開発ステージ別の創薬パイプライン

トータルの研究室や製造施設は東京ドーム111個分

マサチューセッツ州では研究室および製造設備のスペースが年々拡大しています。2011年には1840万平方フィートだった研究室および製造設備のスペースは、今では約3倍に当たる5590万平方フィートとなっています。平方フィートという単位には馴染みがないかもしれませんが、5590万平方フィートは、東京ドーム111個分の面積に相当します。かなりの規模感だとお分かりいただけると思います。さらに今後、2025年までに、2600万平方フィート以上のスペースが追加される予定とのことなので、いかにマサチューセッツ州がバイオ産業に力を入れているかがよく分かります。

研究室および製造設備については、現在Moderna社が急速な勢いで拡大を図っており、圧倒的です。同社は現在、バイオ・製薬業界に強い不動産業者である米Alexandria Real Estate Equities社と契約し、46万2000平方フィート分のビルを建設中です。私も毎日、通勤で建設中のビルを目にしますが、着々と工事が進んでいます。ビルが完成した暁には、Moderna社において、mRNA医薬の更なる研究が進むことになるでしょう。

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